おばあちゃん食堂vs私

エッセイ
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しばらくすると、おばあちゃんは「はい、できたよ〜」と完成したサンマーメンを持ってきてくれた。両手が塞がってるおばあちゃんの歩く速さは、まるで静止画のようだった。手伝おうと思い
「すみません、私運びますよ!」
と声をかけたが「大丈夫だよ〜」とやんわり断られ、結局おばあちゃんは3mの距離を30秒程かけて持ってきてくれた。
正直ラーメンには致命的なスピードだった。
結構薄々思ってたが、ここは『ひとみばあさん』のコラボカフェなのかもしれない。
 
おばあちゃんからラーメンを受け取り、さて食べようとラーメンを見ると、そこには真茶っ茶のラーメンがあった。
薄めたカレーぐらい色が濃かった。
 
しょっぱそうだなぁ〜と思ったが、私は塩分の取り過ぎが原因で全国一県民の寿命が短い県の出身者なので、そこら辺は全然気にしないで麺をズルルとすすりスープを一口飲む。
 
むっ…………………
こっ………この味は……………………
お湯!!!!!!!!!
お湯、しょうゆ風味!!!!!!
 
え、この茶色、味の色じゃなかったの!?!?!?
 
なになになにこの茶色、何由来??何から来てるのこの茶色は!
一瞬で私は悪趣味なクイズ番組の回答者になった気分だった。
 
 
この店の外装の色みたいなラーメンをすすっていたら、おばあちゃんは常連客のおじさんと話始めた。
 
おじさん「ばーちゃん、最近はブラジリアンワックスっていうのが流行っててね、なんでも鼻毛を抜くヤツらしいよ」
おばあちゃん「鼻毛はいいけど、あんた下の毛はどうやって処理してんだい
?」
 
わ!下ネタ!と思った瞬間だった。
おじさんとおばあちゃんが私の方を見た。
 
おじさん「下の毛ってばあちゃん、やめろよ〜。俺独身だから見せる相手いねぇし関係ねぇよ〜」
おばあちゃん「そーかい、そしたら私がそのブラジリアンワックスってのでアンタのアンダーヘアを処理してあげようかね」
 
 
地獄だった。
おじさんとおばあちゃんは、ボケる度に私がウケてないかの確認をしてくるのだ。
向こうからしたら新参客を和ますおもてなしの心だったかもしれないが、私は初対面の老人の下ネタで笑うような優しさは持ってなかった。
少し意地悪かもしれないが、私は死んでも笑わない事にした。
 
ここから、おばあちゃん食堂ズと私の地獄のイロモネアが始まった。
私がなかなか笑わない為エスカレートする、おばあちゃん食堂ズの下ネタ。
一方私は真っ茶っ茶ラーメン(お湯味)を食べている事で全ての表情を失ってしまい、笑おうと思っても笑うことが難しい状況。
 
老人達の怒濤の下ネタラッシュの最中、必死に聞いてないフリをしながら食事をすすめる。
残すという選択肢は無かった。
あんなに頑張って運んできてくれたおばあちゃんに悪いから。
 
「なくなれ!なくなれ!!」
 
そう祈りながら味覚を殺して掃除機のようにラーメンをすすった。
 
 
そしてついに一切の笑顔を見せず完食。
その頃になるとおばあちゃん食堂ズもウケるのを諦めて、おじさんの結婚観の話になっていた。こんな虚しい話あるんだ。
 
安心して前を向いたら、カウンターの上に何やらオブジェがあったことに気付く。
え………。
キモッ!!!!
何かのおまじない!?!?
 
私の心の中の萩本欽一が
「さつまいもこんなんしちゃダメだヨ〜〜〜〜〜」
と言った。
 
心の萩本欽一が出てきてしまうという事は相当滅入っているというサインなので、お店を早く出る事にした。
 
私の「お会計おねがいします」という声と、おじさんの「ねーちゃんは結婚どう思う?」が被った。
あやうく、圧倒的年上女性が働く食堂に通い詰めて、いつまでも若者気分でいる未婚おじさんと結婚観を話し合うところだった。
こんな悲しい会話、ない。
 
会計を済ませて、おばあちゃんの手厚いお見送りを受けて外に出た。
思えば、おばあちゃんはずっと良いおばあちゃんだった。
よく知らない私にも分け隔てなく接してくれたし、楽しませようとしてくれた。
 
店を出るといつもの通勤路があり、冬の冷たい風が私を一瞬で現実に引き戻した。
 
 
いかがでしたか??
食の開拓者である皆様の背中を押せたでしょうか??
 
私は、飲食店に求められるものが、「味」だけではないという事を知りました。
人と人との繋がりを含めて、自分の居場所となり得る飲食店。
勇気を出して足を踏み入れたら、そこは違った人生の入り口になっているかもしれません。
 
 
ということで、私はすき家に行きます。
安定して美味しいし、安いから。
 
おしまい。
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