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僕の本業はタクシードライバーでして。いつも道行く人の骨壷を強奪して中身をメルカリで売っているからそれが本業だと思われがちなんですが、週の半分は個人タクシーをやっているんです。
時刻は午前1時過ぎ。深夜です。タクシーの仕事中、たまたま通りかかった下北沢でお客さんの手が上がりまして。葉加瀬太郎みたいな髪型している髭もじゃ中年男性が手を上げておりまして。「あー運転手さん、乗るのは俺じゃなくて、今から荒くれ者の外国人が来るからそいつらこの場所に連れてってあげて欲しいんだよね。」そう言って渋谷にあるバーだかクラブだかが表示されているスマホ画面を見せられる。
うん、いや、行き先は良いんだけど、今荒くれ者の外国人って言ったよね。荒くれてない外国人なら全然歓迎なんですけど、荒くれてるんですよねそれ?大丈夫なの?荒くれ者の外国人つったら朝青龍とかメイウェザーとかしか思い浮かばないんだけど。良くてジャスティン・ビーバー。
しかもそいつ”ら”って複数人いる事匂わせているから、その3人みんな乗ってきちゃう可能性すらあるじゃん。4人まで乗れるから残り1人追加できちゃう。セルとか追加できちゃう。セルが外国人と言えるかどうか知らないけど、まぁ多分外国人でしょう。
すごい嫌なんだけど。「ここ分かる?」と葉加瀬太郎。「住所が書かれているのでナビに入力すれば行けますよ。行けますけど、荒くれ者の外国人?」「ああ、大丈夫大丈夫。うん、大丈夫。」そう言って遠くの方めがけて手招きしてる。そっちを見るとね、エヴァンゲリオンみたいなサイズ感のアメリカンな3人組が歩いてくるんだよね。ズシンズシンつって。暗いからよく見えなかったけど、軽く使徒喰いながら歩いてたと思う。おい葉加瀬太郎!あれエヴァじゃん!エヴァ来てんじゃん!エヴァが3機とも葉加瀬太郎と軽く抱き合ったあとに乗り込んでくる訳ですよ。3人がけの後部座席に2人、助手席に1人。このタクシーほぼNERV。乗り込んだあとも窓全開にして身を乗り出して葉加瀬太郎と抱き合ってんの。
まだやってんの。どんだけ心の友だよ。今更おろすわけにも行かないし、多分それを試みた瞬間砕かれるし。彼らのパンチはバキ!とかドカ!とかいう音じゃないもん。
パチュンだもん。
パチュンの直後に後ろの壁に僕の飛び散った脳みそがくっ付いてるもん。いやもうこうなったら急いで渋谷の店ですよ。時間がかかればかかるほどやばい気がするから。
隙を見て発車。アンビリカルケーブル切断。走り出したらさ、彼らとにかくノリノリで。座席とかバンバン叩きながら踊ってんの。本当に荒くれ者。あの葉加瀬太郎は嘘をつかないタイプだね。またその座席を叩く一撃もいちいち重い音。魔裟斗のキックの音がする。こいつら全員反逆のカリスマ。会話もさ、二言目には「ファッキンジャパニーズ」なのよ。
ファッキンとジャパニーズを尋常じゃなく多用してて、それが僕のことじゃない事を祈ってる。僕は少なくともファッキンジャパニーズだけども、今回だけは僕以外のファッキンジャパニーズの事である事を願ってる。ただね、少なくともこっちからしたらあの葉加瀬太郎はファッキンジャパニーズだわ。荒くれ者をここに押し込んだあの葉加瀬太郎こそがファッキンジャパニーズ確定。ふぁっきんごちそうさま。
「ヘイ!」
「ヘイ!」なんか途中でね、こっちに話しかけてる感じになってきて。
ファッキンジャパニーズだから全然気づいていないふりしてたんだけど、確実に僕に話しかけてるのよ。とうとう飽きたから運転手を殺す気になったのかと思って。ここで返事をしたら暇つぶしに殺されると思って気付かないふりしてたんだけど。しまいにゃ肩をポンポンって叩かれるの。振り向いたらへし折られるやつかなと思ったから、声で「はい?」って。思いっきり日本語で「はい何でしょうか?」って。「ミュージック!ミュージック!」とか言い出す。
暴れながら。はっはーんと。音楽を流せという事だなと思って。ここで気の利いた音楽を流せば、ひょっとしたら僕も仲間に、彼らのブラザー入りするかも知れない。
しかしだ。スマホに入っている洋楽はローリング・ストーンズかクラッシュくらいで。いや彼ら向きかなとも思うんだけど、ロックとかパンクとかかけちゃうといよいよ暴走すんじゃねーかなとも思うわけよ。カーペンターズとかだったら心が鎮まってくれんじゃねーかと思ったんだけど、都合よく無いんだよ。
エーブリィーシャラララーエブリィウォウウォウでどうにかお鎮まり頂きたかった。音楽配信は唯一spotifyがあるけど、今無課金だからランダム再生しかできない挙げ句に広告入ってくる。ノリノリで音楽を聴いてる途中で広告ぶち込んだらさ、どうなると思う?
粉々にされるよ。
広告が流れた瞬間粉にされるよ。ファッキンジャパニーズパウダー。
そういうグルーヴを感じる。「あー音楽は無いですー。ノー。ノーミュージック!ノーミュージック!サンキュウ!」そのか細い声は大声で騒ぐ彼らに聞こえたか聞こえなかったか。
何故か再びノリノリになったので凌いだっちゃあ凌いだ。一切噛み合わないという事で凌いだ。そのまま最後は細い路地を進入して突き当たった所でゴール。
普通に会計を済まして彼らはその店に入って行った。
無性にカーペンターズを聴きたくなった、そんな夜。
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