父の死を語る

エッセイ
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数年前に父が亡くなった。

まだ60にもならない父の死は衝撃が大きかった。

そろそろ区切りの法要なので、少し思い出に浸る。

 

母「とうとう緩和治療に入ったから、そろそろみたい。いつ帰って来れる?」

ハ「ちょっと週明けに仕事があるから火曜日に帰るわ。」

 

そんなLINEを週末にした。

 

『そろそろとは言われたけど、どうだろう。

あと1ヶ月くらいかな?』

『1ヶ月も東京にいるのか。まぁ、仕事はなんとかなるか』

 

そんなことを思っていた気がする。

 

月曜日には普通に出勤。

そこで初めて会社の上司にもしばらく東京に帰ると伝えた。

 

「看取りは子供にとっての重大な親孝行だから、ちゃんと一緒に過ごしてきなさい」

 

そう、部長には言われた。

火曜日にも普通に出勤。たまたま部長に会った。

 

部「お父さん大丈夫なのか?」

ハ「いや、本当にそろそろみたいです。この後すぐ帰ります」

部「出勤なんかしてないで早く帰ってあげなさい」

 

良い会社だと思った。

そりゃあ、父のそばにいない自分の事を親不孝だとは思っていた。

ただ、父自身も仕事人間だったので多分、自分のことも理解してくれるだろうとはなんとなく考えていた。

 

そうは言っても、定時ダッシュ決めてすぐに新幹線に飛び乗った。

 

『いつまで続くかわからない帰省が始まるぞ。』

 

そんなふうに思っていた。

 

♪〜

 

LINE電話が鳴る。

嫌な予感がした。発信者は母。

 

「たった今、お父さんの呼吸が止まりました」

 

あまりにも早すぎた。

あと1ヶ月くらいかと思っていたら、まだ自分は新大阪を出て名古屋にすら着いていなかった。

 

「わかった。」

 

しばらくは呆然としていた気がする。

ただ、不思議と涙は出なかった。よくある話だが、実感が全く湧かない。

そのまま新幹線で東京へ。実家に帰った。

 

そこには、家族と、眠ったままの父。

父はすでに葬儀屋さんによって死装束と死化粧が施されていた。

 

そんな父を目の当たりにして。

なぜか、泣きたくなかった。父に泣き顔を見られるのが恥ずかしいから。

家族はやっぱり号泣したらしい。

でも、自分と父はなんというか、親子でもあるけど1対1の大人として接してたような感じだったので、なんとなく親を失った悲しみというよりはお疲れ様みたいな、そんな感情の方が大きかった。

 

父の遺体を保護するために、ガンガンにクーラーの効いた部屋。

流石に寒かったので寝ずの晩なんかはせずに、実家を出た時のままにしていた自分の部屋で眠りについた。

あまりにも予想外。

死に目に会えなかったけど、会わなくて良かった気もする。

そんな考えもありながら、移動の疲れもあり比較的サッと気を失った気がする。

 

何時間か経った後。

ゴーっという凄まじい耳鳴りと共に目を覚ます。

 

なんだ?と思いながら目を開ける。

目を開けた瞬間、確かな違和感。

 

「体が動かない」

 

人生初の金縛りだった。

 

ゴーっという耳鳴りも止まず、体も動かせないまましばらくあたりを見回す。

ふと、視界の端に何かがいた。

 

よくよく見ると、髪の毛。

 

「えっ?」

 

そう思うとその頭部はゆっくりと自分の目の前に近づいてきた。

 

 

見知らぬ老婆だった。

どんどん近づいてくる老婆。

顔がはっきり見えるまで近づいてきた。

 

「やばい!!」

 

そう思い、渾身の力を振り絞って頭を持ち上げ、

老婆の鼻先に噛み付く。

 

粘土のような食感と共に鼻先を噛みちぎったような感覚。

そして、その瞬間に老婆は消え、金縛りも解けた。

 

慌てて体を起こして時計を見ると深夜2時。

 

いや、このタイミングで出てくるのは父であれよ。

そう思いながら再び眠りについた。

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