メタバースの住人は、イメージよりずっと優しい ~初心者案内の第一人者に聞く~

体験レポート
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きりたんほ
イモリとヤドカリを飼っている。イモリの名前は長久命(ちょうきゅうめい)と力子(かね)。ヤドカリの名前はイオ・エウロパ・カリスト。

俺はインターネットコミュニケーションがたいへん苦手。
この記事執筆中までの半年間、ツイッターでだれとも会話していない程度に苦手。

そんな俺が、連日数時間会話をしていたコンテンツがある。

 それがVRChat。
「メタバース」と聞いて多くの人が想像するであろう、アバターを身にまとい仮想空間上で交流するあれの代表格。雑談をしたり、鬼ごっこをしたり、銃撃戦をしたりできる。
そこで仲良くなった人々の(ヴァーチャル)お家にお邪魔したり、VR上で養命酒を飲んだりしていた。
赤丸で囲っているのが当時の俺。20人くらいでわいわいしてる。

 だが、残業を抱え、8時間の睡眠を求める体質の俺にはVRゴーグルをかぶる生活が長続きしなかった。半年間、VRでだれとも会話していない。

……違う。このままではいけない。VRCのために買った、月給分より少し高い諸々ががこちらを見ている。
メタバースになじむことは、コミュ力向上にもなるし、これからの時代へのアドバンテージになるはずだ。なにより、あの時間はとても良い時間だった。もう一度VRゴーグルを被ろう。





 というわけで、きりたんほの人格からログアウトし、A-carという超かわいい人格にログインしました。エーカーと呼んで下さい。


今回は、VRChatを始めた日本人が最初に訪れるワールドの代表格、[JP]tutorialの制作者であるtamsco274(たましこ)さんにインタビューさせていただきます。よろしくお願いします!

ワールド
VRChat内に無数にある部屋のようなもの。多くはユーザーが作成してアップロードしている。だだっ広い何もない空間のこともあれば、アクションゲームができる空間、幻想的で飛んだり泳いだりするような空間まで様々。

ここが[JP]Tutorial。他の方が居ないようにワールドのクローンを作ってもらいましたが、もとの場所にはどこを向いても人がいました。

取材の間は、撮影とか気遣ってアバター変えていただきました。ちなみに、A-carは身長175cmの高身長女子です。

[JP]tutorialは初心者をとにかく歓迎している

まずこのワールドの成り立ちや目的について教えていただこうかと。最初、こういうワールドってVRChatの公式が用意しているものだと思っていたんですけど、ユーザーであるtamsco274さんが建てられたと聞いてびっくりしました。

そうなんです。だから自分が「もう嫌だ!!消してやる!!」と思ったら消してしまえます。

今や日本人が一番最初に来るワールドの一つが。

このワールドを作ったのは2018年なんです。もとはフレンドと、フレンドのフレンドまでにしか公開していないワールドでした。
集会を開いて、初心者さんを何人か集めて「はい、説明しますよ~」ってのに使っていました。口頭での説明がメインだったので、壁にあったのは画像だけ。解説は書いていなかったです。

プレゼンのスライドショーみたいな感じですか?

そんな感じですね。で、そのうちに「あのワールド使わせてくれない?」といわれることが増えてきて。それならいっそ全体公開してしまおうかなと。まさかこんな有名なワールドになるとは思っていなかったです。

日本人が一番最初に来るワールドはここかバトルディスクですからね。

バトルディスク
 VRChat公式が開発した、円盤を相手に投げつけて対戦できるワールド。
 ホームから飛べるワールドの中で一番入りやすい位置に入り口があり、国籍問わず多くのプレイヤーが集まっている。
 A-carは英語圏の少年3人に煽られながらボッコボコにされた。

さすがにそれは偏見が過ぎます。

すみません。

 

VRChatの人口が増えるにつれて、ここの変化とか感じますかね?

数字的なものはわからないですが、間違いなく増えていますね。
このワールド建てたときは知名度の問題もあって、1人新規が入ってくるかどうかだったんですけど、いまは連続して2,3人は入ってくるのを見ます。
なにより、イベントが増えましたね。このイベントカレンダー、昔は1面に半月分くらい映っていたです。

(赤枠内が取材当日午後のイベント。23個あった。)

え!今じゃ半日分ででぎっちぎちなのに⁉どこに行っていいかわからないくらいあります。

作ったときにはイベントは1日1件あるかどうかでした。イベント中心のコミュニティが少なかったんです。
昔はイベントとそれ以外の人が混ざり合っていたんですけど、今はイベントによく行く人とそれ以外のワールドを回る人で楽しみ方は違いますね。

イベントに行けばいろんな人が挨拶してくれて仲良くなれます。逆に、公開されたワールドを回っている人はそれぞれの遊び方をすることが多いです。様々なワールドの面白さを見つけられます。
もちろんそうでない人もいて、それも良いところですけど。
どちらの遊び方も楽しいから、このワールドを一周回った後、明日からは何をしようとは書いていません。イベントのコミュニケーション、フレンドとのコミュニケーション、一人きりのコミュニケーション、何でもできるのがこのゲームの良いところです。遊び方をを押し付けるのは間違ってます。

なるほど!「イベントいかなきゃ」みたいに思いこむ必要はないわけですね。ちなみに自分が初めてここを訪れたときに案内してくれた方は、一通り説明してくださった後、ベイブレードになって空高く飛び去ったていきました。

VRC有名アバターの一つですね。僕、ザリガニひよこ金魚のアバター持ってますよ。

????

これです。

こっわ。

ワールドもアバターも、あんまりおしゃれである必要はないんです。インターネットではおしゃれですごいものだけ流れてくるけど、こういうものもいっぱいあるんですね。
おしゃれですごい写真を撮るのも、楽しいですし、こういうネタアバターで雑談するのも楽しいです。大事なのは遊び方を押し付けるなってこと。他人に迷惑をかけなければどんな遊び方もよいです。いやだと思う人がいればブロックやミュートをすることもできますし。

例えば、こんなやり方で友達できるかも

[JP]tutorialに来た後、tamsco274さんがあえておすすめするとしたら、どんな過ごし方がいいですか?案内が終わった後、本当にどう過ごしていいかわからない人は。

あくまで、[JP]tutorialとしてではなく、僕の主観でお勧めするなら、最初に声をかけてくれた人に次の日ジョインしたり、同じことをしたりしてみるのはどうでしょう。きっとその人が遊び方を提示してくれます。それで合わなかったらまた戻ってきてもいいし、一人で楽しんでもいいです。話しかけられた人は長続きしやすいですね。
初心者の人が「自分初心者なんです!」とアピールするのは難しいと思います。

ジョイン
フレンド登録した人がログインしている時に、その人と同じワールドへ入ること。プライベートなワールドにいるときはジョインできない。

はい、めちゃくちゃ難しかったです。

だから、以前から中にいる人は初心者へ話しかけてほしいし、初心者の人も怖がりすぎずいったん話を聞いてみてほしいですね。インターネットなんで多少の警戒は必要ですが。

昨日行った集会、主催者さんが入ってきた人全員に話しかけていて、すごい温かみを感じました。

雑談することも、オセロをすることも、草になって見守ることもできる集会。

そういうのがめちゃくちゃ大事です。そういう人とはぜひフレンドになりましょう。

これは自分の話なんですが、最初、VRで友達を作る最初の壁があって。初心者集会で出会った人に二回目会いに行ったらしばらく仲良くしてくれたんですけど。半年もログインしないとまた最初と似た壁が生えてきて……。VRChat長く遊んでいる人は毎日数時間遊んでいる人がいっぱいいるじゃないですか。その輪に入っていくのにしり込みしちゃうんですよね。

いや、そこまででも無いですよ。毎日ログインしている人なんてそこまで多くないです。仲良くなってもVRChat以外で交流することもありますし。出会いはVRChatで、マイクラとかFPSを遊んだりしてることもあります。

……自分、インターネットコミュ力が低く、ツイッターで数ヶ月リプライが無いような人間なんですよ。

身に覚えがあります。でも、あまり気にせず、挨拶からはじめれば良いと思います。数か月会ってなかろうと、フレンドで挨拶できれる人は良い人です。忘れててもまた仲良くなればいいんです。

心が広い人が多いですね!!

というよりは、心の狭い人は続けません。もちろん残っている人の意見なんでバイアスはありますけど。

VRChatだってゲームの一つです。半年以上遊んでいないゲームなんてたくさんあるけれども、それを半年ぶりに起動してもいいし、逆に自分がやってるゲームを全く触らなくなった人がいても嘆くこともないじゃないですか。

 

[JP]tutorialはワールドの作りから初心者に優しい

改めて、すごく初心者に親切なポイントが詰まっていると感じます。この規模のワールドを個人で作るとなると相当な手間ですよね。すごい手が込んでいて。

ある程度ノウハウが固まっているので、そんなに大変でもないんです。このワールドは長く更新できるように見越して作っているんで。解説はほとんどテキストデータなので簡単に書き換えられます。モデルもそうです。壁や床は3種類しか使っていません。パズルみたいに組み合わせているだけなんです。形を変えるとなると少し大変ですけど。

最適化されてるんですね。このくらいシンプルなほうが初心者はわかりやすいし、読み込みも軽いですよね。

そうなんです。初心者案内ってすごいおしゃれである必要はないです。最初のワールドがすごいおしゃれってわけではないから、その後に訪れるおしゃれなワールドがよく見えます。自作のワールドへ誘導してもいいですし。とにかく、5年くらいやっている自分の固定観念と、初めて訪れる初心者の目線の違いは意識しています。

あそこに大きいミラーがあるのも初心者案内しやすくするためです。初心者案内をする人が待機している時、フレンドと雑談するとなると、自然とこの場所になるんです。広いし、大きいミラーがあるので。VRCのみんなはミラーが大好き。

自分も大好きです。自分のアバターがかわいくてたまらん。

で、雑談するときにこのミラーを見ていると、入ってきた人がちょうど見えるんですよね。

その時に、手を振るだけでもいいし、ぴょんぴょんジャンプするだけでもいい。初心者の人って、少しリアクションがあるだけでも親しみやすさが違うと思うんです。自分がいるのに何も反応なかったら悲しいですよね。

VRChat目線で見る、メタバースと社会

ちょっと話は変わるけど気になっていることがありまして。最近偉い人が「これからはメタバースの時代だ!」て言ってるじゃないですか。そういうことが言われる前からメタバースにいた人から見て、どう思われてるんでしょうか。

うーん。古参の人はメタバースって言葉が出るか出ないかの時にはもうやってるんですよね。VRChatはメタバースとして語られますけど、そもそもメタバースという言葉の捉え方も人それぞれですし。例えば、マインクラフトのマルチプレイ。みんなで集まって交流して建物作るコミュニケーションって、メタバースじゃないですか。

で、メタバースが社会的、経済的にどうなのかって話。例えばバーチャル市役所ってちょいちょい聞きますよね。

(出典:守谷市市政施行20周年記念バーチャル市役所 守谷市市制施行20周年記念バーチャル市役所(終了) 守谷市公式サイト-Moriya City

現実では、役所に行って、カウンターへ行って「○○したい」って言って、○○課へ行って、受付表をもらって、書類を書く。これが現実の動線。

これをメタバースでやるとどうなるかというと、ログインして、役所に行って、カウンターへ行って「○○したい」って言って、○○課へ行って、受付表をもらって、書類を書く。現実とメタバースの動線は同じなんです。現実と同じだから、わかりやすい人がいるんですよね。自宅にいながら、現実の役所と同じ、わかりやすいやり方で手続きができる。

ていう意味で、社会的な面では、やる価値はめちゃくちゃあると思います。WEBサイトにシステムを作れば、最初に来た時、カウンターに行く必要もなく手続きができるんですけど、そこまでWEBサイトを使いこなせない人って一定数います。

例えば、お年寄りの方で手書きを好む方っていますよね。きっとやり方がわかりやすいから。エクセルで直線引くときに「この機能を選択して、これを……」とするよりも、定規を当てるほうがわかりやすい方たちです。この世界って、どっちかというと現実のやり方に近いです。線を引くときに腕を動かします。
なので、現実のやり方を好む方に対してこそ、メタバースは使いやすい形にできるのかなと。そもそもログインまでがめちゃくちゃ遠いのは課題ですが。

現実とデジタル化の間をとれるイメージですかね?

そんな感じです。確定申告オンラインって、ネット慣れててもわかりにくいところがあります。そういうのもメタバースならやりやすくできる。やっぱり、社会活動を行う上で価値はありますよね。企業に合うかはわかりませんけど。

ただ……、経済活動をメタバースでやるのは難しいです。
結局のところ、メタバースって遊びの延長なんです。仕事もできますけど、メタバースでする必要はあるのかと。メタバースが合う業種もありますが、多くの業種に普及するイメージはないです。
それに、メタバースではできない仕事もあります。例えば、アバターのおしゃれよりも、化粧品や現実のおしゃれが大好きな人って山ほどいます。そういう人に対して、「メタバースが標準だ!」と押し付けるのは間違っていると思います。

なるほど。ここも遊び方と同じで押し付けるのは間違っていると。

あと、商品もコピペで増やせる世界なので。価格破壊が起きやすい市場です。

ブロックチェーンとかを踏まえてもですか?

ブロックチェーン
改ざんが困難で、取引履歴がすべて記録されるデータ共有のシステム。ビットコインなどに使われている。A-carは詳しくない。

メタバースでは、そもそも第一次産業の生産力が強すぎるんですよ。
一回ジャガイモのデータ作ってしまえばコピペでずらっと並べられますよね。
そうするとジャガイモの価値はどんどん落ちていきます。農家さんは現実のジャガイモを一個ずつ育てて掘っているから価値が生まれるのに。
そして、一回作ったジャガイモは無くなることってないんです。こういうデータは使って消えるものじゃないんで。数量限定モデルをつくることもできますが、それを含めて考えても、農家さんのジャガイモより生産力は上です。

農家さんが作ったジャガイモは品質と値段が上下します。Aさんのジャガイモは高品質だけど少ししか作れない、お値段が張るジャガイモ。Bさんのジャガイモは普通。Cさんのジャガイモはちょっと小ぶりだったり固かったりするけど、たくさん取れてお手頃価格。
メタバースのジャガイモは高品質なものを無限に作れちゃうので、高品質なものを作れるAさんが、Cさんみたいにお手頃価格で売っても問題ないんです。そうすると、お金は回るというよりはAさんに集中しちゃうんじゃないかと。

経済が回るのではなく、トップの作ったものだけが全体に流れちゃうと。
はい。回ると思っている人は、上澄みの考えなんじゃないかな。
いまこのアバターに使っている眼鏡。Boothで買ったんですけど、評価が高い眼鏡とそうでない眼鏡って見た目はほとんど差がないんですよ。
でも、値段は同じだからあえて評価が低い眼鏡を買う人はいない。末端の人はお手上げです。
確かにお金は動くけど、その状態で経済は回りません。

Booth
pixivが運営しているマーケティングサイト。同人商品が多く販売されており、VRで使用する商品も多く売買されている。A-carは衣類をここで買い、他は自作したが、アバターを丸々購入して使っているユーザーも多い。

そうですよね、自分が高い額出したアバターが明日無料になっているかも。

長く市場を見ているとよく聞く話です。例えば、5000円のアバターが700体売れたらいくら儲かりますか?

えっと、70万円。

……ほんとに?

あ、5000円のアバターか、3500万円ですね。

…………。(←計算ミスを指摘するか悩む間だったことに、編集中に気が付きました。)
経済が回ることって、その3500万円が別の形で還元されることだと思うんです。
現実で仕事してお金もらったら、現実で食事したり映画に行ったりしますよね。そうやって現実に還元されます。
アバター作って3500万円儲ける人がいます。その後に食事したりしても映画を見たりしても、それはVRの外での出来事じゃないですか。

VRで発生した利益は、現実のほうに還元されるということですか?

そういったところです。お金は流れるけれども、経済は回りません。VRのイベントでウン億円動いた!ヤッター!ってすごい話ですよね。でも上位と売れてない人でググっと差がいてます。超資本主義です。

その面では冷たいですね。資本主義の悪いところ。保険や税金がないですもんね。

ただ、税金の役割を担うものはあって、それが手数料です。もし、VRChat内で決済するとしたら、そのときに発生する手数料はVRChatの維持に使われます。

ああ!なるほど、そのための手数料。めっちゃ納得しました!

今はVRChat内で決済できないですけど、BoothがVRChatと提携をしましたし、そういう動きは広まっているんじゃないかなと。

Boothって基本的に日本の利用者が多いから、日本からそういう動きは広まってるんですかね?

……うーん、難しいところです。日本って、遊び方がガラパゴス化してるというか。海外のワールド行ったら、自作したとか買ったとかのアバターって10人に1人いるかいないかなんです。日本人がアバターを作る文化は素晴らしいけど、海外よりもすごい!というのは違うんじゃないかと思います。

みんな、A-carとフレンドになろう!

今日は本当にありがとうございました!!最後に記念撮影お願いします!!

可愛い!!

 

というわけで、tamsco274さんにめっちゃVRChatのことがよくわかるお話を聞かせていただきました。VRChatの心理的ハードルが下がったのじゃないでしょうか。
VRChat、プレイするだけならでかいゴーグルを買わなくても、ちょっと強めのPCだけでできます。[JP]tutorialに何度か行くと、結構な確率でフレンドはできますが、それでも初めのフレンド作りが怖いのであれば、A-carにメッセージを送ってください。A-carもあなたとフレンドになりたいです。VRChatの検索欄で「a-car」で検索すれば見つかります。Twitterでの連絡もお待ちしてます。((1) A-car(@AcarVRC)さん / Twitterそして、無限にカルガモがわいてくるワールドや、元カレの家をバットでぶん殴るワールドなんかをめぐりましょう。

 VRの海の中でお待ちしています。

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きりたんほ
イモリとヤドカリを飼っている。イモリの名前は長久命(ちょうきゅうめい)と力子(かね)。ヤドカリの名前はイオ・エウロパ・カリスト。
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