父から映画に誘われた

エッセイ
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夢顎んく
大分県在住のライター。 縦に長い建物のことを主にビルと呼称しています。

 僕が24歳の頃、両親が離婚した。

 

 父の借金が原因だ。母はとにかく神経質かつ感情的な性格で、僕もそうだったが父はさらに息苦しさを感じていたのだろう。

 

 自分の建てた家でさえくつろげない閉塞感から逃れようと、あろうことか彼はギャンブルにはまり込んでしまった。

 

 毎晩残業と偽りながらパチンコホールに通い、軍資金がなくなると消費者金融から金を借りた。ときには、息子である僕自身からも。

 

 生卵の殻を割るかのように恐る恐る僕の部屋をノックし金の無心をする父の、なんとも言えない表情を僕はいまだに覚えている。

 

 やがて借金は母に露見した。祖父母や僕の前で物凄い剣幕で詰められ、父は、何かが限界を迎えてしまったのだろう。半ば逆ギレ気味に別れを切り出した。まさかそんなことになるなんて。母は泣いてすがって抵抗したが父の決意は固かった。

 

 そこから別居までは呆気なかった。父はまるで遠足のようにうきうきと準備を進め、一ヶ月後には別のマンションへ引っ越していった。

 

 それから半年ぐらい経った夏の日。長めのお盆休みを何するでもなくぼんやり過ごしていた僕のもとへ、父から電話がかかってきた。

 

「元気か?あー……、お前が良ければ、明日おれと映画でも見に行かんか?お前が良ければだけど」

 

 父からの誘い。なんだかんだ寂しい日々を過ごしているのか。僕から金を借りた負い目を引きずっているのか。あんな別れ方をしたので、少しでも父としての沽券を守ろうとするのか。

 

 分からないが、僕は父のことが好きだったので、断る理由もなかった。

 

 次の日、映画館が併設されているショッピングモールで父と落ちあい、チケットを受け取る。

 

 映画のチョイスは父に任せていた。果たしてどんなものを選んだのかとチケットのタイトルに目をやるとそこには、

 

 

 

「闇金ウシジマくん Part3」と書かれていた。

 

 

 よくそれが選べたな。しかも3かよ。

 

 

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