元彼をレンタルした話

ウソです
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辺野目えのん

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皆様のおかげで生活をしています。

辺野目、反撃の夜

翌日。
私は決意しました。

彼に夢小説のような
甘~いシチュエーションをやらせる

昨晩の敗因は明確。「詳細な設定を決めず、彼に任せてしまった」こと。

設定がふわふわすぎた。セリフも丸投げした。あれで上手くいくはずがない。

……だが、今回は違う。

数々の2次元イケメンにメロついてきた私は、夢女子、ひいては女オタクとしてのプライドを賭け、資料を広げた。

そう、中学生の頃、自分が書いていた黒歴史──

いや、金字塔である個人夢サイト

「やっぱあたし……こういうのが好きなんだよな」

そう呟きながら、私は筆を執り、調整とリライトを繰り返す。

感情、間の取り方、声色……すべて妄想と現実の狭間を意識した脚本が完成!!!

 

【コテコテ関西弁おはようボイス・レンタル彼氏ver.】

(ガチャッとドア開ける音、勢いのある足音)

「おいえのん!!!!!」

(布団をばさっとめくる音)

「何時や思てんねん!もう太陽ど真ん中におるわ!!」

「お前なぁ、起きへんかったら、今日の予定全部キャンセルすんで!?
 知らんで!?朝飯もとっくに冷めてしもとるがな!」

 

(ふっと声のトーンが柔らかくなる)

「……せやけど、
 お前の寝顔見てたら、なんか怒る気もなくなってきたわ……」

「──せやかて、遅刻はアカンやろが!!!」

(バシン!枕でぽかぽか叩く音)

 

(近くで囁くように)

「はよ起きてぇ。
 お前の“おはよう”聞けへんと、俺、1日始まらへんねん」

 

(間をあけて、小さく)

「……起きたら、ぎゅーしたる。
 それ、今月のサービスな。今だけやで」

(ふんっと照れ笑い)

「──ほんま、しゃーないやっちゃな」

うむ、我ながら完璧な台本かつ、かなりの生き恥。
共通の友人に見られたら終わる。何人かに縁を切られても仕方のないくらい気持ち悪い。
でも最高。本当は毎朝これをアラームにして目覚めたい。

夜に通話の約束を取り付け、この台本を読ませることに。
Paypayで送金することにも、躊躇がなくなってきました。怖いですね。実家から仕送り減らされてるのに。

 

ウワキッショ

そう言っていた彼ですが、送金した途端

ええやんええやん!おう!今日はなんぼでも甘い言葉言ったるで!

コロッと手のひら返しをされました。現金なやつです。

早速、読んでもらいました。

 

おい、えのん……

ブフッw

アカンこれ無理や、ちょっと待って

真剣にやれよ

や、分かってんねんけど……

俺、こんなん言わへんし

金貰ってる以上はプロだろ

レンタルとは言え彼女の要望に応えるのが彼氏の仕事だろうがよ

や、まぁ別に俺が自ら望んだ仕事やあらへんしなぁ

いいから!!!真剣に!!!やるの!!

俺にフラれたんそういうとこちゃう?

文句をいいつつも、この台本を見事に演じ切ってくれました。

何度かやっていると、興が乗ってきたのか、彼の方から提案が。

ん~。むずいな。何か他のシチュエーションないん?

(指パッチン)そう言うと思ったぜ!

創作を長年やってきた女オタクの底力を舐めるなよ。


オタクとして数々の“供給不足”を乗り越えてきた私。

おはようボイスから異世界転生まで、シチュエーションのストックは常に数十件。

演じる相手が素人だろうと関係ない。

妄想と情熱があれば、いくらでも脳内で補完できるから。

さぁ、彼よ──全力で、照れながらやれ。

 

最初は「これほんまにやるん?オレやで?大丈夫なん?」みたいな

半笑いの空気出してたのに、段々興が乗ってきて上手くなるのなんなんだ。吐息とか。

若干噛みながら言ってきた時点で、笑いこらえるのに腹筋が死んだ。

 

いや、素人演技すぎてクオリティは正直アレなんですよ。

棒読み気味のセリフ回しに、若干感情の迷子みたいな抑揚。

ところどころ「これ誰キャラだっけ?」ってなるくらい混乱してるのに、

 

なぜか、それがめちゃくちゃ良い。

こっちは「やばw笑っちゃう」と思いながらも

イヤホンの奥で響く彼の声に、脳がじわじわ焼かれてる。

素人なのに、ちゃんと刺してくる……その“素朴な殺傷力”がいちばん効く……。

こっちはもう、笑いきゅんの混在で感情が渋滞してるのに、どの顔で返せばいい?

本気で「セリフ噛んでくれてありがとう」って思ったの、人生初かもしれない。

もうちょっと棒読みでもいい。

ていうか、一生下手なままでいてくれ。かわいいから。

 

で、そろそろ「次の台本いく?」って流れになったと思ったら─

時 間 が 来 て し ま い ま し た

気分はまるで12時を迎えたシンデレラ。
悲しみに暮れながら、彼との通話は一方的に切られてしまいました。

眠るのが名残惜しすぎて、つい「大好き」などと口走ってしまいました。

このまま画面を閉じて寝ようとした瞬間、

 

おいおいおいおいおいおいおいおいおいおい
どういうつもりだよ!!!!!!!!!!!
キュンキュンさせやがってよ!!!!!!!
リップサービスにも程があるだろうがよ!!
馬鹿!!!!!!!!好き!!!!!!!!

返信件数の上限により、一気に業務的な文章に。
現実に引き戻された喪失感を抱え、眠ることになりました。

反撃しようとしたつもりが、彼の手のひらの上でコロコロ転がされているような気分。
そしてこの辺りから恋心を上手く弄ばれ、もっと深い彼の沼にハマっていくことになるのです……。

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