龍に愛してくれと言う話

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マッハライオン

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親に向かってなんだそのコールアンドレスポンスは

「では、愛してくれ」

オレがそう言うと龍の目が少し大きくなった気がした。沈黙の後、龍が言った。

「お前をか?」

「他に誰がいる」

龍は困ったように尻尾を少し振った。オレは聞いた。

「叶えられないのか?」

「いや、龍に叶えられない願いはない。しかし」

「ではオレを愛してくれ。それとも男は嫌か?」

「龍に性別はない。しかし何故だ。理由を聞きたい。これまでの人間は皆、金や力を願った。何故、私に愛してほしいのだ」

オレは言った。

「愛は目に見えない」

龍は何も言わない。

「愛は目に見えない。誰かがオレを愛していることを誰も証明できない。本当にオレを愛しているかなど一生わからない。たとえ、オレを愛する者が『オレを愛している』と信じていたとしても、それは実際に愛しているかには関係がない。コンピューターは自分のバグを発見できないからだ。オレは愛を確信したい。そのためには龍の絶対的な力が必要だ。なんでも叶えられるアンタの力が」

龍が口を開く。

「ならば誰でも良いではないか。私の力で誰か他の者がお前を愛するように仕向けることもできる。何故私なんだ」

「愛することを強制するのはかわいそうだろう。他の人を愛せなくなる」

「私はかわいそうではないのか」

「龍はもともと孤独だろう。それにアンタはオレに負けたんだから多少は我慢しろよ」

龍が眉をひそめて言った。

「それは愛とは呼ばない」

「どういうことだ?」

「強制されて誰かを愛することは愛とは呼ばない。愛は自然に芽生えるものだ。誰かに強制された愛に価値はない」

オレは首を傾げた。

「何を言っているのかわからない。愛には自主性が必要だというのか?外的な要素は干渉し得ないと」

「当然だ」

「アンタは単純接触効果を知ってるか?吊り橋効果は?外的な要素を完全に排除した愛が存在するとでもいうのか」

「それはあくまで付加的な要素で」

「じゃあなんだ、アンタは見ず知らずの誰かを突然愛するようになるとでもいうのか。出会いはどうだ。育ちは?癖は?外的な要素ではないのか」

「だがそれは強制されているわけではない。あくまで自然に愛するようになる」

「誰かを愛する人はみなそう思うよ。たとえそれが単純接触効果や、相手の計算された言動による誘導の産物だったとしても、たとえ龍の力で誰かを愛するようになったとしても」

「屁理屈だ」

「だが理屈だ。それに、いずれにせよアンタが産み出す愛こそが”真の”愛になるはずだろう?龍の力は絶対的だ」

龍はため息をついて言った。

「願いは三つだ。あと二つを聞かせろ」

「一つ目を叶えてからでいいだろう」

龍は首を振った。

「お前を愛してしまう前にお前の考えを客観的に聞いておきたい。私にもそれくらいの権利はあるだろう」

オレは頷いた。

「二つ目はオレにアンタを愛させること」

龍は笑った。

「自分のことも信じられないのか」

「それはそうだ。さっきも言っただろ、コンピューターは自分のバグを発見できないんだよ。それに何も無しの状態からではオレはアンタを愛せない」

「ひどい言い草だな」

龍は言った。

「しかし愛を享受するだけでは物足りないのか。自分も愛したいと」

「享受するだけなら確信などいらない。互いに愛し合いたいからこそ確信がほしいんじゃないか」

「…道理だな。三つ目は」

オレは一呼吸置いた。

「三つ目は、アンタが今後一切の願いを叶えられないようにすること」

龍は目を剥いた。

「私に龍の力を捨てろと言うのか」

「龍の力に対抗できるのは龍の力だけだ。誰かがアンタに勝って『愛するのをやめろ』と願ったら敵わないからな」

「あくまで確信を求めるか」

「オレは絶対の愛がほしいだけだ」

龍は悲しげに首を振った。

「…臆病だな」

オレは静かに龍を見た。

「お前は臆病でかわいそうな人間だ。誰かを愛することを、誰かに愛されることをこんなにも恐れているとは」

「無駄口を叩くな。早く願いを叶えろ。ここで首を切り落としてもいいんだぞ」

龍は笑った。

「それがこれから永遠に愛し合う者に対する台詞か?」

願いは叶えられた。オレと龍は互いに確信を持って、愛を享受しあった。オレたちの間には一点の曇りもない理想の愛があった。しかしその愛は完全であるがゆえに愛たり得なかった。

オレが100歳で死ぬと龍は後を追って自ら命を絶った。完全な愛を奪われることは魂を引き裂かれることと同義だったから。

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