【村上春樹さんに届け】2023年のミートソース茶漬

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三戸 満平
雑食ライター。 ご飯と米とライスが好き。 宮﨑あおいさんは女神。

こんにちは、料理愛好家の三戸満平です。

 

さて皆様、村上春樹さんはご存知でしょうか。

1979年の「風の歌を聴け」でのデビュー以来、「ノルウェイの森」や「羊をめぐる冒険」など数多くの作品を輩出し、ここ数年はノーベル文学賞を受賞するかどうかで毎年取り上げられている(個人的にはもうやめてあげてほしい)、日本を代表する作家です。今年は最新長編「街と、その不確かな壁」を出版し、ファンや小説好きを盛り上げたのは言うまでもありません。

「やれやれ」僕は××した など、ネットミームとしても使われがちな村上さん。作品も独特のテイストがあるため、実は読んだことがない、なんか苦手、という方も多いのではないかと思いますが、実は村上さんは小説だけでなく、エッセイもすさまじく面白い方だったりします。

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小説では難解な世界や、解釈が多々生まれるような表現を作り出す村上さんが、エッセイの中では「わりと普通の、きさくなおじさん」になっており、あの人もこんな普通のことを考えたりするのだな、やっぱり一人の人間なんだなと感慨深くなったりも。親戚でこういうおじさんがいたら間違いなく宴席が楽しくなるだろうなと思います。

で。先日もその村上さんのエッセイ集の一つ「村上朝日堂」(新潮文庫)を読み直していたのですがその中で村上さんがご自身の嫌いな食べ物について書いている部分にこんな一節がありました。

 

僕はカレーもうどんも好きだけど、これが<カレーうどん>となるとどうしても手を出す気になれない。困ってしまう。コロッケうどんというのを先日新宿で見かけたけど、これも食べられないね。

(中略)

そんなことを許し続けていたら今に「ミートソース茶漬」なんてところにまでつっ走らねばならないではないか?

村上春樹『村上朝日堂』(新潮文庫)234p 太字は三戸満平による強調

あの村上さんがカレーうどん、コロッケうどんが許せない!と書いているのが何とも「普通の人~~!」という感じで個人的には一気に親近感がわくのですが、

同時に思うのが

でも村上さん、カレーうどんも、コロッケうどんも美味しくないですか?

ということでした。

 

(段々カレーうどんの美味しい季節ですね。夏に食べても美味しいけどさ!)

カレーうどんは、そのスパイシーさと出汁が混然一体となっているところに、うどんがいい具合に絡まっていて、寒い冬に食べても汗が噴き出すのがいいですし

(これをねぇ!ハフハフ言いながら食べるのがたまらんのですよ村上さん!)

 

(コロッケをのせることを考えた人は本当天才。)

コロッケうどん(すみません画像はコロッケそばです)は、コロッケのもつ油や中のタネの甘みやコクが出しにしみこんで、モロモロとなった衣と一緒に麺をすするのは至福の一瞬だと思います。

(これをねぇ、モロモロすするのがたまらんのですよ村上さん!あとコロッケ熱々だとやけどするから気を付けてね村上さん!)

 

つまり、つまりですよ。

カレーうどん→美味しい!

コロッケうどん(そば)→美味しい!

ということは!

この文章の中で「突っ走ってしまう」という表現で最悪の権化のような形で書かれているミートソース茶漬けも実は美味しいんじゃないかということなんですよ。

これは…村上春樹好きとして行かねばならぬ。

「ミートソース茶漬けをめぐる冒険」に・・・・!

ミートソース茶漬けは果たして「どちら」か

ミートソース茶漬けをさっそく作るのですが、ここで考えなければいけないのは、ミートソース茶漬けの「主語」はどっちかということです。

ミートソース茶漬けの中には、皆様お察しの通り「ミートソース」と「お茶漬け」の二つの料理が含まれています。

この時、ミートソースを主語にすると、

「ミートソーススパゲッティにお茶漬けをかけたもの」

と取ることが出来ますし、逆にお茶漬けを主語にすると

「お茶漬けにミートソースをかけたもの」

と取ることが出来ます。『1973年のピンボール』に出てきた双子のように、この言葉の中には二つの料理がくるくると入れ替わって存在しているのです…!

熟考の結果、

「カレーうどん」は「カレーをかけたうどん」、

コロッケうどんは「コロッケを載せたうどん」

であることから、「ミートソース茶漬け」は同じ順序で考えて

「ミートソースをかけたお茶漬け」

とこの時点では考えていました。

完成、ミートソース茶漬け

というわけでさっそく作ってみましょう。ミートソース茶漬け。

用意するのはこちら。ミートソースとお茶漬け(そしてご飯)

(永谷園とマ・マーもまさか共演するとは思ってなかったろう)

まずは普通にお茶漬けを作ります。

(みてるだけでサラサラとかき込みたくなりますね)

そしてここに、今回の主役であるミートソースをかけて行きます!

(とろとろと落ちていくミートソース。ママも心なしか困惑顔か?)

この作業をやってる時の感想としては、「猛烈に悪いことをしている気分」でした。なんというか、侵略行為をしているような気分というか。

和×イタリアの前例で言えば、きっと初めて納豆パスタとかを作った人も同じような気持ちだったのかもしれないですね。一緒にするなって言われそうですが。

そんな風に、かつての偉大なシェフたちの葛藤に思いを馳せている間に、ミートソース茶漬けの完成です。レトルトなどを使ったおかげで調理時間10分もかからなかったので割とお手軽に作れる料理ではあるんですね。そこら辺は高めのポイントをもらってもいい気がする。

さ、まず見た目はこちら。

・・・・。

・・・・まぁ、ナマコやホヤに比べたら美味しそうじゃないですか?ね?

ここで見捨てるのは早いですよ村上さん!大事なのは味!

さっそく食べてみましょう!

ミートソースとお茶漬けが馴染んでくると、正直「大げさにいう程変でもないなこのビジュアル」という感じになってきます。スープオムライスとか、そんなものがあるとしたらきっとこんなビジュアルなのでしょう。

いよいよパクリ。

あー…なるほどね…これは…

案外悪くない!!

めっちゃおいしい~!とかそういうものでもないけれど、ご飯だしとミートソースを吸い込んで一緒になってくれるおかげで、ちょっと緩め、やさしい味のリゾットみたいな味になります。

イタリアの家庭でおなかが痛くなった子供のためにマンマが作ってあげそうなお味。

みんな大好きサイゼリアでこっそり売っていたら、孫に連れられてきたおじいちゃんとかが喜んで食べそうな気もする。

うん、村上さん、これ、全然アリですよ!!

やっぱ春樹はスパゲッティーっしょ

ミートソース茶漬け、美味しかったなぁと思いながらも、なんか腑に落ちない私に秋の風。

やっぱ、そうなんです。

そうなんですよ。

村上春樹と言ったらスパゲッティーなんです。

村上春樹のスパゲッティー好きはおそらく日本の作家の中でも随一で、作品の中で様々な主人公がスパゲッティー(あるいはパスタ)を作って来ただけにはとどまらず、短編集「カンガルー日和」の中では『スパゲッティーの年に』という、とにかく沢山のスパゲッティーが出てくる作品すらあります。

ここまでスパゲッティー好きな村上さん、あの時エッセイを書きながら村上さんが想像していたのは、やっぱこっちなのでは・・・?

ということで日を改めて作りました。

茹でたスパゲッティーに。

ミートソース。(公平を期すためにマ・マーのミートソースにしてます。美味しいし)

そして!

お茶漬けのりをかけてから

お湯をだばー。

完成!「ミートソース茶漬け(パスタ版)」!

見た目は完全にシャバシャバのミートソーススパゲッティーなのですが、果たしてお味はいかに!

いざいざ!

(ずずずず)

・・・・やっぱり。

やっぱりそうだ!

こっちの方が!スパゲッティーのほうが美味しいです!村上さぁぁあん!

シャビシャビに思えるのですがシャビ部を担うのは出しのきいたお茶漬けのスープなおかげで、味が薄まっているわけでもなく、むしろミートソースの風味をさらに膨らまさせている気がします。

そしてミートソースが、ようやく盟友スパゲッティーと出会えたことで、ご飯の時にあったちょっとしたよそよそしさを完全に投げ捨てて、スパゲッティーとくんずほぐれつ混じり合い、本来のおいしさを下にダイレクトに伝えてくれます。

(こころなしかミートソースも嬉しそう)

海苔の風味やあられの食感も相まって、和風ミートソーススープスパゲッティ―!という感じで、お茶漬けにミートソースかけたものより、こっちのミートソースの方が断然うまい!スープスパのお店で出してたら普通にリピートするくらいこれは美味しい…!

 

粉チーズをかけたらさらに美味しかったです!これはマジで発見だ。

はぅ、僕の頭に、村上春樹がスパークしてくる・・・・!

これは…村上春樹の幻影(ヴィジョン)・・・・!

『村上春樹作品の主人公がミートソース茶漬スパゲッティーを作ったら』

ヒカリがやって来る前に、僕は簡単に昼ご飯を作ることにした。

ラジオから流れてくるバッハの四重奏に併せて口笛を吹きながら、沸騰させたお湯にスパゲッティーを放り込む。

何かソースを作ろうという所で、別れた妻が置いていったミートソースのレトルトが残っているのに気が付いた。僕はいつでも手作りでソースを作っていたけれど、彼女は一人の時はこういう風にレトルトでスパゲッティーを食べる人だった。

同じようにキッチンを見渡すと、お茶漬けの素が一袋だけ、まるで残された孤独を表すかのように置いてあった。彼女は本当に仕事が忙しい時は、家に帰ってからお茶漬けだけを美味しそうに食べて寝ていた。今になって考えれば、仕事が忙しいというのさえ本当のことかはわからないけれど。

レトルトのミートソースとお茶漬けの袋は、そういう意味では完全に今の僕の台所にとってはよそよそしいものだった。違和感、と言った方がいいのかもしれない。

僕はしばらく考えてから、スパゲッティーを皿に盛り、そこにレトルトのソースを破ってミートソースをかけた。トマトの不必要に赤い色が、まるで大量虐殺を思わせる。台所の虐殺。

そしてそこに僕はさらにお茶漬けのふくろを破って緑色の粉や海苔をまんべんなくかけ、最後にパスタのゆで汁をそこにかけた。ありえない。絶対に美味しくはないはずだ。

台所に立ったまま、僕はフォークを雑に回してからそのパスタを口に含む。

「やれやれ。」

それはとても美味しかった。

別れた妻の残した、ミートソースと、お茶漬け。

「かっこう」

彼女がどこかでそう言った気がした。

<終>

おわりに~村上春樹さんへ~

いきなり何を読まされたんだ、と思った皆様お帰りなさい。もうすぐ出口です。

とにかく、美味しい発見となったミートソース茶漬。特にスパゲッティーで作る方は普通に今後も作って食べたくなるような美味しさでした。

村上春樹さん、あなたにこの文章が届くかどうかはわかりませんが、ミートソース茶漬、美味しかったです。

あなたが嫌がる極致として挙げたミートソース茶漬けが美味しかったということは、もしかしたら村上さんにとってカレーうどんもコロッケうどんも美味しいものなのかもしれません。

ぜひぜひ、一度食べてみてください。

あと、サインください。超ファンです。

(おわり)

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雑食ライター。 ご飯と米とライスが好き。 宮﨑あおいさんは女神。
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