スポットライトは悲哀の色

エッセイ
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ピリきゅうちゃん
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「自転車のイタズラ被害にあった生徒は放課後、多目的教室に集まってください。」

 

先生がそう言った。
多目的教室に通う足取りは重い。

私は14才だった。

14才の私は思春期のべたついた脂ののった肌の上で、整えていない眉毛はいつも「ハ」の字を描く、垢抜けない少女だった。

多目的教室に行くと、自転車の被害にあった他の生徒が7~8人すでにいた。こんなにも被害者がいることからも分かるように、うちの中学は荒れていた。
狂った生徒が廊下に消化器を噴射し、木刀振り回しながら止めに来た先生が全身真っ白になったりする。そんな学校だった。正気ではない。

自転車被害者の会のメンバーは多様であった。中には明るく人気者のような生徒もいた。狙われる人間は無作為に選ばれている。
人間関係のヒエラルキーは複雑に存在していても、自転車にイタズラされるかどうかはただの運なのである。

「じゃあ今からどんな被害にあったか確認していくぞー、1人ずつどんなことされてたか言ってくれるか?」

 

先生に言われて、せきをきったようにだれかれともなく口を開き始める。

 

「サドルが抜かれて花が刺さってました」
被害の第1パターンがこれであった。皆久々に「俺も」「私も」と共感し合い、サドルの代わりに何が刺さっていたのかを発表し合う。
「何が」の部分を考える大喜利である。

 

「後ろの部分の反射板が割れてました。」
第2パターンがこれである。後輪の後ろにある赤いガラスの部分だ。割れやすいということもあり、そこめがけて蹴りをいれればすぐ割れてしまう。

 

「お前もそこ割れてたん?」「ウケるな〜」
被害者の会は妙に和やかなムードがあった。団結感さえ芽生えていたように感じる。やばい学校で日々を切り抜ける共通意識が、かけがえのない仲間を作るのである・・・。

 

「ピリきゅうさんは自転車どうなったん?」

1人の生徒が私に声をかけた。
黙って話を聞いてるだけだった私は口を開いた。

 

「タイヤの・・・金属部分が全部バラバラになって外されて地面に落ちてた。あとパンクもしてた。」

 

息を呑む音が聞こえた。

私も自分で気付いていた。
私だけ・・・私だけ被害がエグい・・・。

 

「すげぇ・・・」

 

誰かがそうつぶやいた。
同情というより、賞賛の響きがあった。

 

中学三年間で目立たない私が、唯一スポットライトを浴びた瞬間だった。
スポットライトの色は悲哀に満ちていた。

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