俺が大人になるとこ見ててよ

エッセイ
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ゐわな

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その花は踏んでいいよ

スマートフォンのロックを指紋認証で開けることのできる”Touch ID”を設定した。

一度自分の指紋を登録してしまえばその後は親指をかざすだけでロックを解除できる便利な機能だ。

さて、今日は何をしようかな。

とりあえずTwitterを見るか。ホームボタンに親指をかざして、、、と。開いた。本当に便利だな。
みんな今日も元気にツイートしてるね。

俺も何か書こう。

偽みつをの詩を作った。

はぁ、、、

せっかくの休日だしもう少し寝ようかな。

おやすみなさい。

 

…ふぁぁ、結構寝ちゃったな。もう昼だ。

みんな何してるかな。Twitterを見てみよう。

親指をかざして、、、と。

ん????????

指紋が認識されませんでした……?

寝てる間に指紋が変形しちゃったのか?
結構デリケートなんだな。

登録し直すか。

親指をかざして、、、と。

よし、今度はちゃんと開くぞ。

しかしこれは厄介だな。事あるごとに登録し直してたんじゃキリがない。

なんとかしてこの親指の指紋を保ったまま生きていかなければ。

誰が俺の指紋を狙っているか分からない。

うっかりしてると簡単に指紋を削り取られてしまう世の中、指紋を人に向けるのはあまりに不用心だ。

とりあえずジャンケンは当分パーを禁止にしよう。あれは危険すぎる。
グーとチョキで指紋を守りながら上手くやればいいな。

そんなもんかな。ジャンケン以外で手を使うことなんてないしな。

 

よし。散歩でもするか。

少しでも休日に爪痕を残したい。

 

近所の公園に来た。

子供たちが何かを決めるジャンケンをしている。

「ジャンケン、ポイ!」

グー、グー、パー、チョキ、パー。

パーか。いいな。俺もパーを出したい。

大人はなんでもできる。子供の頃はそれを「自由」だと思っていたがそんなこともないのかもしれない。歳を重ねるほどに守るべきものは増えていく。それが家族だろうが己の親指の指紋だろうが確実に不自由を伴うことになる。

あと半年で20歳になる。その時俺は何を思うだろうか。指紋は残っているだろうか。

そうだ。半年後の自分に向けてタイムカプセルを埋めよう。ちょうどそこに砂場がある。

 

けっこう深いのが掘れたな。

………なんか埋めるの面倒になってきたな。
埋める具材もないし。

さっきのジャンケンボーイズに頼むとするか。

「おーい!ガキどもー!この穴埋めとけー!」

 

 

散歩を続けよう。

どこかに大人になるためのヒントがあるかもしれない。

 

いてっ!!

足の裏に違和感。
靴の中に小石でも入り込んだか?

よし。

あれ?まだ入ってる。
靴下の中か。あるあるだな。ネタバレ乙。

え?ウソ???

足の裏の皮膚の中に入ってんじゃん!

なんだ奇病かよー。

病院には行かない。
自分の不安に名前を付けられるのが怖いから。
あと白い服を着ている人が怖いから。

俺はノンスタイルの漫才を見る時は画面の左半分を画用紙で隠している。

 

奇病を抱えて歩いていこう。

 

 

この街にはこれを曲げる妖怪でも住んでるのか?
俺の指紋も危ないかもしれない。
一本だけ残っているのは何のメッセージなんだ。怖すぎる。

 

 

誰が!? 何を!?  俺の指紋を!!??

 

 

神社に来た。

「親指の指紋が誰にも削り取られませんように。あと卒業したら森で暮らしたいです。
そこでは熊とか兎と一緒にどんぐりを分け合い、楽器を演奏しながら生きていきたいです。熊や兎といってもガチのやつではなくクレヨンで描いたような解像度低めのやつでお願いします。楽器はフルートをやらせてください。そのフルートを兎が勝手に使うことがありませんように。野生動物の感染症は洒落にならないです。よろしくお願いします。」

叶うといいな。

 

希望を抱えて歩いていこう。

 

 

テロへの牽制なんだろうけど、
「敵が強いほど燃えるだろ!警戒されてるからこそ俺はここでテロをやるんだ😡」みたいなジャンプの主人公タイプのテロリストがいたらと思うと余計不安になってしまう。

 

不安を抱えて歩いていこう。

 

食堂にたどり着いた。
ここのコロッケ弁当は最高だ。

毒さえ入ってなければ。

毒コロッケ。痺れるほどの美味さ。
この痺れが毒によるものなのかは分からない。
俺は大人じゃないから。

お腹も満たされて、もう指紋の事はどうでもよくなってきた。

 

帰るか。

 

毒素を抱えて歩いていこう。

 

 

ここまででかいタバコもそれを上に投げる奴も見た事ない。

陰で”レジェンド喫煙者”と呼ばれているはず。

こういうスケールの大きい大人になりたい。

 

 

最後の一本がやられてた。もうダメだ。

 

 

公園に戻ってきた。

 

母に手紙を書こう。

お母さんへ。

「お久しぶりです。そっちはどうですか?

元気にやってますか?

俺はいま大人になるための旅をしてるよ。

答えは見つからなかったけど心配しないでください。

きっと立派な大人になってみせるから。

今から帰ります。お風呂沸かしといて。」

 

俺は実家暮らしだ。

学費まで払ってもらっている。

ありがとう。

直接渡すのは照れ臭いからここに埋めていこう。母の勘は鋭い。きっと気づくだろう。

「あんた、公園の砂場に私への感謝の手紙埋めたでしょ。顔にそう書いてあるわ。」

顔に書かれてるにしては長文だな。

 

砂場にちょうどいい大きさの穴が掘ってある。

誰が掘ったんだろう。俺かな。

ここに埋めるか。

 

 

今度こそ帰ろう。

 

結局、大人になるためのヒントは見つからなかった。

そもそもそんなものはないのかもしれない。

ただ昨日のような今日を過ごし、今日のような明日を待つ。

そうすれば嫌でも大人になる時は来る。
公共料金を払い、赤信号で止まる。

どうしても嫌になったらリタイアしよう。
出口の見えたトンネルなら怖くない。

ジャンプでもしながら気楽にいこう。

ふぅっ!!!!!!!!

 

 

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