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地獄デート事件
少なからずヤバさは感じていたものの、女性から好意を寄せられる経験なんてめったになかったため、内心舞い上がっていた。すると、今度はレッスンではなく、デートとして会いたいと言われた。正直、前回のものがレッスンと呼べるかという疑問はあったが、とにかく、デートと言うからには、先生―生徒間の主従関係から一般的男女関係になる可能性があるため、慎重にいかなければならないはずだ。言い換えるならば、男女関係フェーズに突入する覚悟が必要ということである。しかし、当時の私はそんなものは皆無であった。寧ろ、アメリカンガールとデートしたという事実は良い土産話になるなという最悪な思想を持ち合わせていた。これは完全に自分の非である。そのようなゲスな思いを抱えたままデートを快諾してしまった。
まず彼女が連れて行ってくれたのは、ラウンドワンみたいなところだった。そこには、レーザータグと呼ばれる、電子銃で行われるサバイバルゲームみたいなものがあった。
(参考画像)
写真のように、ギミック搭載の楽しいフィールドを駆使して、2群に分かれたチームで撃ち合うことが予想される楽しそうなものだった。しかし、彼女が私を連れて行ってくれたのは、圧倒的平日の午前だった。当然、平日の朝っぱらから、レーザータグに興じる人などいるはずもなく、広大なフィールドを2人だけで遊ぶ必要があった。そこは2人だけの時間….♡といったロマンチックな雰囲気などとは程遠く、ただひたすら気まずさが流れるだけであった。無駄に広い空間で、無駄に長い時間撃ち合わなければならない状況を想像できるだろうか。これは、母親に「何で斉藤和義はせっちゃんっていうあだ名なの?」と執拗に聞きまくり、最終的に母親の口からセックスという言葉を引き出してしまった時よりも気まずかった。
さて、そんな気まずいイベントの後も、和食が食べたいと言ったら意味わからん中華料理屋に連れていかれたり、コーヒーを飲みに行ったら、なぜか1人12ドルも取られたりと、絶妙に嫌なことが続いた。もしも自分がこのようなデートプランを好きな人に課してしまったら、恥ずかしさと不甲斐なさで、失禁しながらズボンを破り、蛙飛びをしてコサックダンスをしていただろう。しかし、ここはアメリカ。彼女はファーストデートを大成功と思ったのだろうか、家に帰ってしばらくすると5件以上の通知があり、そのどれもが「デート楽しかった!大好き♡」的な内容だった。果たして、デートのどの内容が楽しかったのかも分からないし、そもそも、深い話は避けていたにも関わらず、自分のことを好いてくれているのは嬉しいというよりも不気味だった。そのメッセージには、「レーザータグはすごかった」というような、楽しかったとか自分も好きと言った内容に極力触れない適当な返事をしておいた。しかし、それからというもの、常に2、3件のメッセージがたまっており、早く会いたい、恋しいといったメッセージで埋め尽くされていた。自分はだんだんと怖くなってきて、麻雀パイや歯車の適当な絵文字のみで返していた。すると、メッセージはさらに過激化してきて、睡眠薬、会えないなら自分は死んだ方がまし、と言った内容に言及されて初めてリアルガチメンヘラに遭遇してしまったと気付いた。
決着
怖いメッセージに恐れをなして誘いを断りまくっていたら、自殺するといった内容に踏み込まれたので、それはまずいと思い、会うことになってしまった。彼女は料理が得意だから、ぜひ料理を作らせてほしいとのことだったので、彼女の部屋で料理を作ってもらうことにした。ちなみに得意料理はステーキと聞いたときに、え?焼くだけじゃん(もちろんそれ以上の技術もあるはずだが)と一抹の違和感を覚えていたが、実際振る舞われた料理は、クックドウの野菜まで入っている版の、文字通り焼くだけのものだった。作ってもらう身なので文句は言えないのだが、袋を開けて焼いている後ろ姿を見ていると、え?焼くだけじゃんという,一種軽蔑の目もあったが、それ以上に哀愁漂う背中が印象深かった。きっと彼女は悪女なのではなく、単純に現代社会でちょっと生きにくいタイプの人なのだろうと思った。別れ際に、またデートに行きたいと言われたが、丁寧に断った。彼女は瞳に涙を浮かべているようであったが、これは男女の運命(SADAME)。涙は避けて通れないのである。しかし、彼女が人間として嫌いと言うわけではないため、たとえ男女の仲にはなれなくても憎み合うことなく、良い友達になれれば良いと思った。
家に帰ると、お前は私をだました、不幸になれという趣旨のメッセージが来ていて、ゑ!?と思った。さらに、この後、他の3人の日本人の友達も全く同様の手口でアプローチを仕掛けられていたと聞いて、ゑ!?ゑ!?となった。そして、さらに、私を含めた、全員の日本人に断られた後、学校をやめて日本に行き、彼氏を作ったと聞いたときはゑゑゑ!?と思ったが、同時に、敵ながらあっぱれとも思った。
自分はこんなに何かに対して熱中できることがあっただろうか。手段は正しいとは言えないが、何かに対して際限ない愛を持てるのは素晴らしいことだと思った。対して私は、死んでも手に入れたいと思えることはなく、まぁいっかで済ましてきてしまった。いろいろ小難しいことは考えるが、結局行動に移せない自分よりは、ちょっと過激ではあるもののメンヘラガールの方が立派である。いきなり本当の愛を見つけることは難しいかもしれないが、できることからやっていきたい次第である。まずは、女の子に1秒間あたり16個のメッセージを送ってみようと思う。
キャプテン今日の格言!
以上っ!(カンカンッ)
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