トリンドル似のレディーボーイ

エッセイ
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踊れないならドレスを脱いでしまえ

仕事柄たまに海外出張がある。

出張先は洋の東西を問わず、今回の出張先は社員から人気のあるタイのバンコクだった。人気の理由は『タイの女の子がカワイイ』。これがストロングポイントになって男性社員には特に人気なのだ。俺も同様、上司から事前にいろいろ聞かされてバンコクに飛んだので入国前から楽しみになっていた。微笑みの国タイ。もれなく俺のことも微笑ませる。

 

仕事もそこそこに夜のバンコクへ繰り出す。現地の社員に案内されゴーゴーバーで妖艶な踊り子さんを鑑賞する。すでにテンションは上がっていたが案内役の社員が耳元でささやく。「次のお店はもっと面白いですよ…」。そうなの?はやく行こうよ。

次に連れて来られたのはニューハーフのお店。いわゆる『レディーボーイ』というやつだ。て…店員さんカワイイ!不安な気持ちがすぐに吹き飛んだ。ほとんどの店員がお笑い要素なしのキレイな人ばかり。ホールリーダーだけ『顔がキレイ目のナマズ』だった。

ギギギ…あ、脳内でなんか聞こえるぞ…ドアが開く音だ…新しい世界への扉?ちょっと待ってくれ!

俺の横に着いた子がこれまたキレイ。モデルの『トリンドル玲奈』にそっくりだった。

かあいい。

あれ?俺…緊張してるのか…?!ちょっとだけ震える手でシンハービールを喉に流す。
このトリンドルちゃん、お姉さんが日本の姫路に嫁いでいて日本へは何度も遊び行ったことがあるそうだ。だから日本語もカタコトで喋れる。良い~~っ!カタコトの日本語イイ~~!これでパクチー丼3杯はイケる~~!!

胸もあるし髪もサラサラで本当に女性にしか見えない。この感動をせっかくなので本人に伝えたい。大音量の店内、その子の耳元に近づいて「すごいキレイですね。レディーにしか見えないですよ。」と褒めた。

それを聞いたトリンドルはニッコリ微笑む。あ~~っ!笑顔も天使じゃ~~~っ!!ついに俺の股間も反応。どうした!どうしたもないな、理由はハッキリしてるじゃないか。股間が既にトリンどる。

え…待って…俺、こっちもイケんのか?と思った瞬間。トリンドルが俺の手をガシッと掴んで自らのパンツの中に突っ込んできた。

 

っっっ!!!!!!

 

唖然。あっと言う間の出来事で声が出なかった。トリンドルの股間に突っ込まれた俺の手はしっかりとアレの感触を受け止める。ちっちゃいけど確かに男性のアレが付いてる。

 

「ワタシ、チャント、オトコダヨー。ダケド、イツカ、トルヨー」

 

視覚から入る情報と触覚から入る情報が一致しない状況で混乱の極みに達した俺の股間はバグった。ビンビンにバグった。ああ、気付かれる前に治ってぇ。それを見たトリンドルが更に耳元で

 

「ワタシ、オトコダカラ、オトコノキモチ、ワカル、キモチイイトコモ、ワカル、オンナノコニ、マケナイ、コンヤ、ツレテカエッテ?」

 

脳みそがふやけた。まるで湯切りを忘れた焼きそばだ。この誘惑に思わず乗りそうになった俺だが……そこは日本のサラリーマン。理性を取り戻し、優しく手を払って速やかに退店した。理性持って来てよかったー!

とても寂しそうな顔でお見送りするトリンドル。そんな顔しないで…。両手を合わせて「コップンカップ(ありがとう)」と伝える。股間を膨らませながら。

 

日本へ帰国後、テレビでトリンドル玲奈を見かける度に、あの日を思い出して恥ずかしくなってしまう。俺はこの思い出を背負って生きていくしかないんだ。

あの時もし会社の人と一緒じゃなかったら俺はどうしていただろうか?プライベートで来ていたら?もしかして…?

 

新世界の扉は思っていたよりすぐそばにあった。

手を伸ばすとたぶん届いたけど、俺は半ドアにして帰ってきた。

 

~おしまい~

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